中央集権と非中央集権の違い

ビットコインの誕生を皮切りに、主にブロックチェーン業界で注目され始めた
「非中央集権」という概念があります。
これまでにその言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。


政府や企業といった、ある仕組みの運営母体を担う組織を持たず、p2p(個人間)でその仕組みを共同運営するというものが非中央集権の思想であり、これに則って運営されるプロジェクトは、中抜きゼロによる低コストの実現や透明な意思決定、破綻によるプロジェクト消滅リスクが無いといった観点で大きく注目を得ています。


しかし一方、非中央集権型にもデメリットはあり、従来の中央集権プロジェクトには対抗できない部分もあるのです。そこで今回の記事では、中央集権・非中央集権プロジェクトそれぞれが有するメリットとデメリットをまとめました。双方の良し悪しを比較しながら投資するプロジェクトを検証できるようにして頂ければ幸いです。



中央集権とは

国の全ての政治を中央省庁が丸ごと管轄する政治体制のことです。
ちなみに、今ではフランスがこの中央集権国家の代表例として知られており、その姿は『セーヌ川の右側にフランスの権力が集まっている』と揶揄されているんだとか。
日本では公地公民制の時代や明治時代から敗戦までがこの体制。

非中央集権とは

非中央集権とは、中央管理者を介在させずに個人同士が価値を直接やり取りできる設計のことで、ブロックチェーンに代表される技術により可能になった仕組みです。
P2PネットワークやProof of Work(マイニング)などの基幹技術によって、個人間での信用が保証されたことで機能しています。


ブロックチェーンなど、近年におけるハイテク技術として用いられ、世界に浸透されつつあった仕組み
ブロックチェーンの仕組み解説中👇


ブロックチェーン

中央集権のメリットデメリット

メリット



意思決定スピードが早い
中央集権型の大きなメリットは、意思決定プロセスや意思決定者が明確かつ限定されていることから、意思決定に至るスピードが早いということです。特に新たに事業を立ち上げたスタートアップ企業などの小規模な組織では、意思決定が非常にスピーディになります。


現代社会はVUCAとも呼ばれる、非常に不安定で様々な物事やトレンドが急速に変化する環境になっています。ことビジネスにおいては影響が顕著であり、意思決定プロセスが肥大した旧来の大企業や公的機関ではそのスピードに付いていけなくなってきた、という指摘もなされる状況です。


そのため、組織の意思決定スピードが早いということは、そのぶん現代の環境やユーザーニーズに適応し、将来にわたって生存する会社・プロダクトを提供できる実力を有することにも繋がるのです。


後述しますが、非中央集権のプロジェクトではどうしても意思決定プロセスが重くなりがちなため、この点はビジネスにおいては望ましくないと言えます。シリコンバレーなどのスタートアップ企業が怒涛のスピードで事業を展開し、どんどん世の中を便利にするプロダクトをリリースしている状況を鑑みれば、中央集権型のプロジェクトが世間の主流である状況は揺るぎがたいと思います。


意見の対立による分裂の懸念が小さい
また、意思決定者が決まっており、意思決定プロセスも明確であることから、意見の対立によるプロジェクトの分裂や解散といった出来事には繋がりにくいという点もあります。もちろん会議中の対立や、株主VS取締役会の構図が生まれることなどはありますが、基本的には一枚岩としてプロジェクトを進めるべく議論し、一つの方向に結論を収れんしてアクションへと繋がります。


この点、非中央集権プロジェクトを要とするブロックチェーンでは、例えばイーサリアム財団の意思決定に異議を唱えたメンバーが分裂し、新たにイーサリアムクラシックを立ち上げたり、ビットコインのスケーラビリティ問題への対処方法を巡って意見が分かれた結果、ビットコインキャッシュなど様々なフォークコインが誕生したりした背景があり、大きく状況が異なると言えます。


ビットコインキャッシュやイーサリアムクラシックも一定のユーザー数を確保できていることを鑑みると、必ずしもプロジェクトの分裂自体が悪いというわけではありません。しかし事業の観点で言えば、分裂によって人的リソースが分散されてしまうぶん、一つひとつのプロジェクトの成功確率は下がってしまうと考えられます。


元の企業に生じる、分裂による欠員を補充するための採用コストや事業計画の見直し、社内の雰囲気の建て直しといった様々な負担を考えても、中央集権型のほうがそれらのリスクを低減できるアドバンテージはあると言えるでしょう。




デメリット



母体の破綻による投資価値毀損の可能性がある


これが中央集権型の主なリスクの一つであり、非中央集権という概念が注目を集めた理由でもあります。


中央集権プロジェクトにおいては運営権が運営母体そのものにあるため、例えば母体企業が破産し事業譲渡先も見つからなかった場合には、これまで進めてきたプロジェクトは消滅してしまいます。それに伴い、供託などの資産保全措置が講じられていなければ、その企業が約束していた資産の価値(企業の独自ポイントなど)も消滅してしまいます。


破産に伴う資産の払い戻しを受けられなかった場合、債権取り立てのために訴訟を提起しなければならない可能性もあり、負担は大きくユーザーにのしかかることになります。


なお、母体が破産したとしても事業譲渡に成功していればプロジェクトの運営は続くと考えられますが、企業経営が破綻している状況を鑑みると、譲渡はそう簡単ではないことが分かります。いつサービスが終了するか分からず、元本消失リスクも抱えるのが中央集権プロジェクトのデメリットとなります。



意思決定や組織へのガバナンスにリスクがある


また、意思決定者が限定されていることはスピード感に繋がる一方、十分な監査機能がなければ組織が腐敗してしまう可能性もはらんでいます。トップが私利私欲のために非合理な経営判断を行い、事業を傾かせる話は昔から聞かれるものです。


近年こそコーポレートガバナンスやESG投資といった概念も広まり、大企業を中心に経営の透明性が確保されてきているものの、ブラック企業という言葉が未だ頻繁に用いられる現状を考えると、やはりプロジェクト運営母体のガバナンスに対するリスクは織り込む必要があるでしょう。

非中央集権のメリットデメリット

意思決定が民主的で透明である


取締役会など限られたメンバーにおいて意思決定が行われる中央集権型と異なり、非中央集権のプロジェクトでは意思決定権が分散されています。いわば直接民主主義政治のような形で、多数のユーザーによる投票などの合意形成を通じて最終的な意思決定が行われます。


この民主的な意思決定を行うにあたっては、万人に情報公開を行う必要性が生じます。多くのブロックチェーンプロジェクトにおいては、システムの中身であるプログラミングコードを外部に一般公開する「オープンソース」という形態を取ることでこれを実行しています。


こうした形を取っているため、非中央集権プロジェクトは非常に透明性が高くなっており、各ユーザーは意思決定の過程まで明確に把握することができます。この点における安心度は高いと言えるでしょう。


意思決定や組織に対するガバナンスが図れる


上記の透明性により、非中央集権プロジェクトでは運営や開発に携わるメンバーに対して適切なガバナンスが図られます。各ユーザーに開発状況や意思決定がガラス張りになるため、不正はすぐに発覚・追及されるほか、仕事をサボっていた場合にも叱責や不信任決議を受けることとなります。


中央集権型プロジェクトの運営母体が非上場企業であった場合には、上場企業には義務付けられる監査などを行っていない企業が多いため、ガバナンスの観点で言えば非中央集権型の採用は有効です。

×

非ログインユーザーとして返信する